経済・産業の成長が伸び悩む中、日本にとって「観光を通じて外貨を稼ぐ」ことは重要なテーマになってきています。
しかし、単純に観光客数を増やすだけでは、地域の負担や住民の暮らしに悪影響を及ぼす「オーバーツーリズム」を引き起こす可能性もあります。
そこで問われるのが、少ない人数で、大きな経済効果を生み出す観光です。
つまり、どの国のどんな人に来てもらえば、観光地に負担をかけずに日本の稼ぐ力を高められるのか?が重要です。
そのヒントを、データから探っていきましょう。
インバウンド市場を俯瞰する:ボリュームゾーンはどの国?
まずは以下の散布図をご覧ください。(いずれも2024年統計値)
- 横軸:各国の富裕層(約1.5億円以上を保有する個人)の数(万人)
- 縦軸:訪日者数(万人)
- バブルの大きさ・色:その国からの訪日消費額(億円)

目を引くのは、中国、台湾、韓国、アメリカ、香港の圧倒的存在感です。
| 国名 | 訪日者数 | 総消費額 | 一人あたり消費額 | 富裕層数 |
|---|---|---|---|---|
| 🇰🇷 韓国 | 879万人 | 9,602億円 | 11万円 | 130万人 |
| 🇨🇳 中国 | 611万人 | 17,265億円 | 28万円 | 601万人 |
| 🇹🇼 台湾 | 577万人 | 10,897億円 | 19万円 | 79万人 |
| 🇺🇸 米国 | 271万人 | 9,011億円 | 33万円 | 2,195万人 |
| 🇭🇰 香港 | 265万人 | 6,606億円 | 25万円 | 63万人 |
人数×単価の両軸で突出する中国と、少数で高単価を実現するアメリカ。このグラフは、「どの国にどれだけのポテンシャルがあるのか」を直感的に示しています。
他の国々の可能性
次に、中国、台湾、韓国、アメリカ、香港を除いたバージョンを見てみましょう。

| 国名 | 訪日者数 | 総消費額 | 一人あたり消費額 | 富裕層数 |
|---|---|---|---|---|
| 🇹🇭 タイ | 115万人 | 2,264億円 | 20万円 | 14万人 |
| 🇦🇺 オーストラリア | 92万人 | 3,492億円 | 38万円 | 194万人 |
| 🇵🇭 フィリピン | 81万人 | 1,510億円 | 19万円 | 3万人 |
| 🇸🇬 シンガポール | 69万人 | 2,004億円 | 29万円 | 27万人 |
| 🇻🇳 ベトナム | 62万人 | 1,374億円 | 22万円 | 3万人 |
| 🇨🇦 カナダ | 58万人 | 1,765億円 | 30万円 | 199万人 |
| 🇮🇩 インドネシア | 52万人 | 1,109億円 | 21万円 | 3万人 |
| 🇲🇾 マレーシア | 50万人 | 1,092億円 | 22万円 | 12万人 |
| 🇬🇧 イギリス | 44万人 | 1,658億円 | 38万円 | 306万人 |
| 🇫🇷 フランス | 38万人 | 1,387億円 | 37万円 | 287万人 |
| 🇩🇪 ドイツ | 31万人 | 1,050億円 | 34万円 | 282万人 |
| 🇮🇹 イタリア | 23万人 | 821億円 | 36万円 | 141万人 |
| 🇮🇳 インド | 23万人 | 562億円 | 24万円 | 12万人 |
| 🇪🇸 スペイン | 18万人 | 670億円 | 37万円 | 120万人 |
| 🇷🇺 ロシア | 10万人 | 319億円 | 32万円 | 38万人 |
全体として、アジアと欧米豪の構図が浮かび上がります。アジア諸国は訪日者数が多い一方で、単価が欧米豪と比較すると低めであり、欧米・豪州は単価はアジア諸国よりも高いものの、訪日者数はアジア諸国よりも少ないです。
アジア圏と欧米豪、旅行スタイルの違いが生む「単価の差」
アジア圏と欧米豪では旅行スタイルがどのように異なるのでしょうか?紐解いていきましょう。
アジア圏:短期・都市集中型
アジア圏からの旅行者(韓国・台湾・中国・香港など)は、日本と地理的に近く、週末を利用した短期旅行が中心です。
その多くが東京・大阪・福岡といった大都市に滞在し、買い物やグルメを目的とした消費がメインとなる傾向があります。
また、短期滞在で宿泊費を抑えるケースが多いため、総支出額も控えめになりやすい特徴があります。
欧米豪:長期・地方分散・体験型
一方で、欧米やオーストラリアからの旅行者は、長距離移動のコストを踏まえ、一度の旅行で10日前後滞在する人が多いです。
その結果、宿泊費・飲食費・交通費・体験サービス費など、旅全体の支出が大きくなる傾向があります。
また、欧米豪の旅行者は「日本らしさ」や「文化体験」に強い関心を持つことが多く、温泉宿や伝統芸能、自然体験、地方観光にも積極的にお金を使うスタイルが見られます。
単価の高い層をどう取り込むか?
アジア圏は依然として訪日客数の面では圧倒的なボリュームを誇りますが、高単価な旅行者層としては欧米豪が有望です。
地方都市にとっては、「滞在日数が長く・体験にお金を使う」高単価な層をどう誘致するかが、地域経済への波及効果を最大化する鍵となります。
そこで、富裕層(=ポテンシャルカスタマー)が多い国はどこなのか、見ていきましょう。
圧倒的に多い欧米豪の富裕層
UBSのGlobal Wealth Report(2024)によると、百万ドル以上の資産を持つ人の数は:
- 中国:約601万人
- 韓国:約130万人
- 台湾:約79万人
- 香港:約63万人
一方で、
- アメリカ:2195万人
- ドイツ:282万人
- イギリス:306万人
- フランス:287万人
- カナダ:199万人
- オーストラリア:194万人
つまり、欧米豪の方が富裕層の“母集団”が圧倒的に大きいのです。
少人数×高付加価値こそターゲット?
オーバーツーリズムを回避し、稼げる観光産業を創っていくためには、
- 富裕層は多い(横軸)
- 訪日者数は少ない(縦軸)
- 消費額は大きい(バブル)
市場を狙う、つまり、「少人数でもしっかり稼げる」欧米豪などの富裕層の観光客層を長期的なターゲットにするのが良いかもしれません。

富山県の現状と可能性
富山県はまだインバウンドの「主戦場」からは距離があります。
富山県の主な指標
- 外国人延べ宿泊者数:24.3万人(全国シェア0.2%未満)(2024年観光庁宿泊旅行統計調査)
- 主な国籍:台湾・香港・韓国・中国が過半数
- 消費単価:3.3万円/人(全国平均は5.1万円)(2023年4-12月期観光庁インバウンド消費動向調査)
しかし、富山には欧米人が好む要素が豊富にあります。
- 立山・黒部の雄大な自然
- 八尾や山町筋の歴史的街並み
- 銅や錫などの伝統工芸文化
- ホタルイカ・シロエビ・高志の紅ガニ・ひみ寒ぶり・地酒などの高品質な地産品
→ 富山=“喧騒から離れた非日常”の素材を持つ未開拓地なのです。
富山県の観光戦略は欧米豪の富裕層向けに既に舵が切られていますが、今後は欧米豪の富裕層のうち、具体的にどのような層をターゲットにして、どのような受け入れ環境を整備し、どのような価値をどのような手段で訴求すれば高単価な消費をしてもらえるかということについて分析していく必要があるかもしれません。




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