「隣の県は、なぜ同じ労働時間で多く稼げるのか?」
朝9時に始業し、夕方5時にタイムカードを押す。働く時間は同じなのに、1時間あたりの稼ぎは県によって驚くほど差があります。
では、その差を生むカギは何か――。統計を紐解くと、どうやら“製造業の強さ”が地方の給与水準と深く結び付いていることが見えてきました。
「稼げる産業」を数字でざっくり俯瞰する
まずは全国ベースで、就業者1人当たり名目付加価値額(ざっくり言えば “1人が1年で会社に稼ぎ出すお金”)と、従事者数(働いている人の数)を産業ごとに比較してみましょう。

製造業は「規模(雇用吸収力)」と「質(稼ぐ力)」を兼ね備えた“地域経済の主力エンジン”。
情報通信は生産性がピカイチでも就業者が少なく、卸売・小売は雇用は最大級でも生産性が低い。電力・ガスや不動産は生産性が突出するものの従業員が極端に少なく、地域経済を底上げする力は限定的――という構図がくっきり浮かび上がります。
県別に見る「製造業シェア × 1人当たり県民所得」の相関
さて、産業ごとの力学を踏まえて、都道府県にズームインしてみましょう。
下の散布図は縦軸=1人当たり県民所得(万円/年)、横軸=製造業(建設業も含めた第二次産業)従事者割合(%)。

回帰式:所得 = 393万円 × 製造業比率 + 195万円
相関係数 r = 0.69
つまり、製造業従事者が10パーセント増えると1人当たり所得が約40万円押し上がる計算。
グラフ右上のには愛知・静岡・富山などのものづくり県が並び、左下には沖縄・鹿児島など観光県が並びます。
富山―「モノづくりが家計を潤す」モデルケース
富山県をもう少し深掘りしましょう。製造業従事者割合33.3%(全国1位)、1人当たり県民所得329万円(6位)。
背景には3つの要素があります。
- 医薬品・電子部品・工作機械の三層構造
ハイテクから伝統産業まで多層的にそろい、景気循環の波を平準化。 - コンパクトシティ×共働き文化
通勤が短く、共働き率が高い→時間当たり所得がさらに上振れ。 - 部材・設備の BtoB 輸出比率が高い
為替や海外需要の恩恵を直接受け、外貨を地域に呼び込む。
“製造で稼ぎ、サービスで回す”――そんな地域経済の好循環が形になっています。
徳島―「ニッチ・ハイテクで抜ける」例外的成功
対照的に、徳島県は製造業従事者割合23.3%(27位)なのに1人当たり県民所得は320万円(9位)と全国トップ10入り。
いわば「量より質」で結果を出した県です。
- 大塚製薬・日亜化学というハイテク巨艦が本社機能と研究開発を地元に置き、平均給与を一気に押し上げる。
- 人口が少なく、企業所得を“割る分母”が小さいため 1人当たり指標が跳ね上がる。
- LEDや電池材料、バイオ医薬など、高粗利ニッチに集中投資した結果、県内総生産の伸びが第3次産業依存県よりも高い。
同じ“製造”でも「人海戦術型」ではなく「研究開発+高付加価値」の尖った戦略で勝っているわけです。
「産業のかたち」は変わり続ける、だからこそデータをアップデートし続けよう
足元で製造業は“旧来型のモノづくり”から、グリーントランスフォーメーション(GX)と半導体回帰という2つの大波に飲み込まれつつあります。政府は 今後10年間で150 兆円規模のGX投資 を民間とともに呼び込むロードマップを閣議決定し、カーボンニュートラルを梃子にした新規事業の創出を後押ししています。
一方、脱中国依存とAI需要の高まりを背景に、TSMC 熊本工場の第2期計画には7,320 億円(約48 億ドル)の追加補助金が決まるなど、先端半導体の国内生産を巡る支援が加速。
こうした政策投資は、単に設備を増やすだけでなく、高付加価値人材の流入と所得の再配分を促す点で、地域経済に新たな層を生み出す可能性があります。富山の「量で稼ぐモデル」も、徳島の「質で攻めるモデル」も、GXと半導体という横風をどう味方に付けるかで、10年後の地図は塗り替わるかもしれません。
次にチェックすべきは、GX関連の設備投資が実際にどの県に着地するのか、半導体サプライチェーンの裾野が地域賃金をどう押し上げるのか――。データが揃い次第、また皆さんと一緒に深掘りしていきたいと思います。





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